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2016年7月24日 (日)

保険金殺馬

新冠町・競優牧場の放牧地で1歳馬2頭が殺された事件。先日、その子馬を射殺したとして同牧場の経営者が逮捕された。殺害された子馬には保険が掛けられており、また競優牧場自体が事件後に破産宣告を受けていたことから、まるでディック・フランシスの競馬ミステリシリーズのようだという声も聞こえてくる。

競走馬に保険をかけること自体は珍しくはない。決められた料率の保険料を払い、被保険馬が死んで、それを獣医師が証明し、保険会社が認めれば保険金が下りる。一口馬主クラブの所属馬とて例外ではないから、保険に救われた経験を持つ方もいらっしゃるだろう。金の卵を産む種牡馬ならなおさら。サンデーサイレンスが死んだときは約30億円もの保険金が支払われた。だが、今回のようにデビュー前の1歳馬となるとあまり例を聞かない。競優牧場はどういうわけか保険金請求をしなかったというから、どのような保険内容だったかも謎のままだ。

保険金目的でサラブレッドの死が扱われた事件としてもっとも有名なのは、米国における「アリダー事件」であろう。

日本ではリンドシェーバーやタックスヘイブンなどの父として知られるアリダーは、1990年に米チャンピオンサイアーの座に就いたが、同年10月13日の深夜に繋養先のカルメットファームの馬房で右後肢を骨折した状態で発見され、数日後にその怪我が原因で死んでしまう。程度こそ重いが症状はごく普通の骨折。ほかに外傷も見られないことから、アリダーが自分で馬房の壁を蹴って骨折したという牧場側の主張に獣医師も同意。競馬産業史上最高額である3650万ドルもの保険金が支払われた。

だが、その翌年カルメットファームが巨額の負債を抱えて倒産すると、「アリダーは保険金目的で殺されたのでは?」という噂が流れるようになる。噂はたちまち疑惑となり、疑惑は嫌疑となり、ついに牧場の責任者が提訴されるに至るが、最終的には証拠不十分というアンチクライマックスな形で幕を閉じた。

アリダーの疑惑も競優牧場の一件も、どちらも舞台が名門牧場のという点で共通している。加えて興味深いのは、どちらも不自然な点が多過ぎることだ。いくら相手が口のきけぬ馬とはいえ、もう少しマシな方法を思いつかなかったものだろうか。多額の保険金が掛けられた種牡馬が警備員が目を離した隙に大怪我を負えば、不振を抱かぬ方がおかしい。それならむしろ放牧中の1歳馬がライフルでハンターに誤射される方がまだありそうな話だが、それでも被害馬のそばにゴロゴロと薬莢が落ちていれば言い訳のしようもないじゃないか。

ディック・フランシスの小説を読めば、自然死に見せかけて馬を殺す方法はいくらでもあることを思い知らされる。薬物の投与や疝痛死に見せかけた感電死。馬に蹄葉炎を発症させることが子供にでも簡単にできると思えば、馬もおちおち暮らしてられないと気の毒でならない。

Uma 

こういう事件が起こるたびに思い出す。20年ほど前、北海道の牧場で一棟の厩舎が火事になった。馬たちは飼い主の手で外へ助け出されたが、そのうちの1頭が飼い主の手を振りほどいて、燃え盛る厩舎に飛び込んでいったのである。中には、その朝生まれたばかりの仔馬が取り残されていた。普通、馬に限らず動物は炎を前にするとすくんで動けなくなる。なのにこの母馬は怯むことすらなかったという。結果、この母子は焼け死んでしまった。

軽々しく馬に手をかける行為は、馬にも劣る蛮行なのである。

 

***** 2016/07/24 *****

 

 

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