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2016年6月24日 (金)

データと経験

明後日に迫った宝塚記念の最大の注目は、ドゥラメンテのレースぶりであろう。なにせドバイ帰国直後の一戦であり、落鉄直後の一戦でもあり、そして凱旋門賞を見据えた一戦でもある。

「人為的にいろいろケアしながらという部分は否めませんので、そのあたりがこのレースの結果にどう影響してくるのか。検証したいと思っています」

追い切り直後に行われた記者会見の席上、ドゥラメンテの堀調教師は「検証」という言葉を使った。ドゥラメンテを生産したノーザンファームでも、よく耳にする言葉だ。

検証とはデータを得ることである。つまり、主観に基づく経験則よりもデータに表れる客観性を重視しようということか。敢えて「検証」と呼ぶからには、高度な専門性と緻密性が求められる。それを実現可能としたのが、ノーザンに在籍する多くの獣医師たちであろう。ノーザンファームは日本でもっとも大勢の獣医を抱える生産牧場でもある。

「今はデータが揃っているから助かりますし、それが役にも立っています」

先日、ノーザンの獣医師のひとりからそんな言葉を聞くことができた。ノーザンでは毎日のミーティングで各厩舎の代表者が様々なデータを持ち寄り、それを吸い上げて全体管理しているのだという。最終的にはそれが勝ち上がり率の向上や故障率の少なさに繋がっていることも、具体的な数値として牧場全体が把握しているのだそうだ。

Northern_2 

じゃあ経験則はないがしろにしてもいいのか? ところが、それがそうもいかない。3年前の牧場ツアーでのこと。とある馬をジッと見つめていた会員さんが、傍らの吉田勝己氏に問いただした。曰く、こんなに繋が立っていて大丈夫なのか?―――と。

すると、勝己氏はその馬の足もとをジッと見つめ、数秒の沈黙ののちに「大丈夫、これは寝る」と言い切ったのである。

立っている繋が寝る―――。そんなことが本当に起こるのか? それを件の獣医師に聞いてみると、馬体の成長速度の違いにより起き得るという。

馬の脚は骨が先に成長し、そのあとを追い掛けるように腱が伸びる。だから、成長の過程で繋が立ってしまうことはある。それでもある程度の傾斜が残っていればあれば、徐々に負荷をかけて、ストレッチの要領で腱を伸ばしつつ成長を促すことは可能。ただし、ある程度立ってしまうと、もう寝かせることはできないし、かえってツメを痛めることに繋がる。じゃあ、その「ある程度」の分岐点はどこにあるのか。そこは個人の主観、すなわち経験則に頼るしかない。難しいもんですね。

Admiregroove2012 

その繋が立っていたという牡馬こそ、ほかならぬドゥラメンテである。その後ノーザンでの適切なケアにより彼の繋は見事に寝て、圧倒的な強さでクラシック2冠を制し、ついには凱旋門賞を目指そうかという素晴らしい優駿に成長した。

ちなみにその獣医は、「もし来週の宝塚で負けたら、凱旋門には行かない」とも言い切った。実はノーザンの他のスタッフからも同じことを聞かされたし、勝己氏もそうおっしゃっるのである。

なぜか。「勝てるかもしれない」という程度の馬で行って、運よく勝ったとしても、そこにさほどの意味はない。「勝てる」という馬で勝ちに行って、その上で勝ってこそ意味がある。皆がそう口を揃えるのである。データだけでなく、目指すべき道についても牧場全体で共有されていた。この一体感こそが今のノーザンの強さかもしれない。

 

***** 2016/06/24 *****

 

 

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