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2016年3月11日 (金)

それぞれの3.11

昨日も書いたが、5年前のあの日、私は大井の特別レース3鞍に間に合うよう家を出た。10レース「菜の花特別」は3歳の選抜戦。のちに北海優駿を勝ち、ダービーグランプリでも2着するピエールタイガーが出走を予定していた。

メインは「ゴールデンステッキ賞」。成績上位の騎手だけが騎乗する特別なレースである。贔屓の真島大輔騎手が、勝つチャンスのありそうな馬に騎乗を予定していた。

そして最終12レース「春風特別」には、のちに西日本グランプリなど重賞を3勝することになるつレイズミーアップが出走を予定していたのである。この日いちばんの目当てはこのレースだった。

Rasemeup

家を出て、駅に向かって2、3分ほど歩いたところで揺れに遭遇。それが私にとっての2時46分である。激しい揺れが1分近く続いたであろうか。電信柱が稲穂のように波打ち、走っていた車はことごとく停止し、学校帰りの子供たちの悲鳴が聞こえたことを覚えている。

すぐさま自宅に引き返して、自宅内部を確認。モノが落ちたり、倒れたりしている様子はない。犬は興奮しているようだが大丈夫。しかるのちにTVの電源を入れた。普通ならNHKであろうが、私がチャンネルを合わせたのは14チャンネル。東京MX-TVである。とにかく大井競馬場の様子を知りたかった。

するとそこに映し出されたのは、ごく普通にかえし馬に向かう8レースの出走馬たちではないか。「なんだ、地震はウチの近所だけだったのか?」。正直拍子抜けした覚えがある。

ところが、TVカメラが映さぬスタンドでは、一部の観客が悲鳴を上げて階段に殺到していたらしい。結局8レースは予定より5分遅れで行われた。勝ったのはエクスプロージョン。あの日は道営からの移籍初戦であった。

ふと思いついてチャンネルを変えると、地震が我が家の近辺だけではなかったことが明らかになる。しかも、尋常ではない事態が進行中であると思い知るまでに、さほどの時間はかからなかった。

ところが、MXにチャンネルを戻すと、9レースの出走各馬が悠然とパドックを周回しているではないか。この時の不思議な感覚を表現するのに適当な言葉がどうしても見つからない。その不思議な感じを受けることができたのは、TVの前にいて、しかも大井も気になって仕方がなかったごくわずかの人間だけであろう。現場にいる人は「さっき大きな地震があった」としか思っていないかもしれないのである。

9レースは20分遅れの発走となり、ダイワカレンが勝った。そして、私が目当てにしていた10レース以降は取り止めである。仕方ない。この時点で、すでに都内の交通は完全にマヒしていたのだから。

あの日、地震に遭遇した場所は人それぞれであろう。それは職場かもしれないし、学校かもしれない。レストランかもしれない。映画館かもしれない。銭湯かもしれない。あるいは競馬場かもしれない。大半の人にとっての震災の記憶は、その場所での光景に重なって脳に刻み込まれているはずだ。

不謹慎の謗りを覚悟で言うが、私のあの日の記憶はTVで見た大井競馬と共にある。それは開催最終日の金曜日の出来事であった。そう、あの震災は金曜日に起きたのである。だからこそ、首都圏の人々は会社に出かけたまま帰宅の足を奪われ、絶望的な渋滞の脇をすり抜けながら、みな歩いて家を目指したのだ。

そういう意味で、金曜日に重なった今年の3月11日に、私は特別な感慨を抱いている。もちろん、地震や津波による直接の被害に遭われた方にしてみれば、曜日どころではないという方もいらっしゃることだろう。それもよく理解しているつもり。金曜日はあくまで私個人のささやかな感慨に過ぎない。それぞれの人にそれぞれの「3.11」がやってくる。それはこの先もきっと変わりあるまい。

 

***** 2016/03/11 *****

 

 

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