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2016年2月29日 (月)

サクラローレルの血

両前骨折明けのドゥラメンテが中山記念を勝った。ゴール寸前でアンビシャスに迫られたとはいえ、2キロの斤量差を思えば完勝と言って良い。20年前にやはり両前骨折明けで中山記念を勝ったのがサクラローレル。だからというわけではないが、中山記念の2時間後に行われる佐賀の重賞レース・鏡山賞のスイングエンジンに注目していた。彼はサクラローレル産駒の重賞ウイナーとして、現役を続ける唯一頭の競走馬である。

Swing1 

サクラローレルの産駒が2歳戦で活躍するケースはほとんどない。3歳になってダート1800mで頭角を現す馬がようやく出てくる程度。つまり奥手のダート血統。サクラローレル自身もダートで3戦して(2,1,0,0)の成績を残している。唯一の敗戦にしても、負けた相手がタイキブリザードなら致し方あるまい。2年連続でBCクラシックに挑むことになるダートの猛者には3/4馬身及ばなかったが、それでも3着馬には7馬身の差をつけていた。

私は現役時代のサクラローレルに直接触れたことがある。いや、結果的に現役最後のレースとなったフォア賞のあとだから、厳密に言えばそれは「現役」ではないかもしれない。いずれにせよ、それは1997年の凱旋門賞の前日のこと。途方もない広さのシャンティイの森を一日中歩き回り、ようやく探し当てた厩舎の窓から顔を出していた日本最強馬は、どことなく憂いを含んだような、哀しげな表情だった。

レース中に故障を発症したフォア賞はまさかの最下位入線。屈腱炎であることと、現役引退が同時に発表されたのはその2日後。それから3週間近くが経ち、夢にまでみた凱旋門賞を翌日に控えたこの日になっても、サクラローレルはまだシャンティイに留まっていたのである。

Sakura 

「せっかく来たんだから顔を撫でていきなさいよ」

そう言う女性スタッフの言葉に一瞬戸惑った。ひょっとしたら聞き間違いだったかもしれない。なにせフランス人の話す英語である。それでもこんな機会はないとばかりに鼻面を撫でてみた。その時の温もりと、微動だにしないサクラローレルの姿はいまも忘れがたい。それは私が抱く「最強馬」の概念を大きく覆した。おそらくよほど頭が良いのだろう。凱旋門賞は残念だったけど、命に係わる怪我でなくて良かったじゃないか。そんなことを馬に語りかけたように思う。

そのサクラローレル産駒として2006年に産まれたスイングエンジンは、JRA2勝の実績を引っ提げて佐賀に転入すると、一昨年の吉野ヶ里記念、そして昨年の九州オールカマーを勝ち、3年連続の重賞勝ちを目指して昨日の鏡山賞のゲートに入った。

レースは2番手追走から楽に前を捉えての完勝。10歳を迎えてますます強さが増したように感じたのは私だけではあるまい。そこはサクラローレルの血統である。

Swing2 

しかし、競馬の神様は時に非情だ。馬主氏にお祝いを伝えようとしたそのタイミングで、その馬主のツイッターがスイングエンジンの故障を知らせてくれた。レース中の発症で、このまま引退とのこと。そんなところまでお父さんの跡を辿る必要もあるまいに。それ以外に言葉が見つからない。奥手のダート血統が開花するのは、まさにこれからだったはず。命に係わるような怪我でなかったのが、せめてもの救い。レースから一日経った今は、そう思うことにしようと務めている。

 

***** 2016/02/29 *****

 

 

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コメント

うわー貴重な写真ですね。

サクラローレルは欧州の芝でこそ!と思っていたので本当に残念でしたよね。


投稿: tsuyoshi | 2016年3月 1日 (火) 10時44分

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