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2016年1月 4日 (月)

【競馬を読む③】コナン・ドイル

サマセット・モームも、チャールズ・ディッケンズも、どういうわけか競馬を書かなかった。競馬の宗家でもある英国において、競馬を扱う文学作品を残したり、競馬そのものに心酔した作家が少ないのはいったいに何故であろうか。コナンドイルの推理小説「シャーロック・ホームズ」シリーズでも、競馬が舞台となるのは二度しかない。

そのうちのひとつが1892年に発表された「シルバーブレイズ号事件」。

大レースの「エセックスカップ」に出走予定の大本命馬シルバーブレイズが、レースを1週間後に控えて行方不明となる。その捜索中、厩舎から1/4マイルほど離れた藪の中で同馬の調教師ジョン・ストレイカーの死体が発見された。そこで馬主であるロス大佐の依頼を受けたホームズの登場となるわけだ。

例によって、無能な警部の罵倒と嘲笑を尻目に、彼は天才的な推理を繰り広げて事件を解決する。その詳しい結末は本書を読んだことのない方のために控えるが、この推理の鍵となる競馬場のシーンにいささかの問題があり、多くの人々から非難の砲火を浴びてしまうのである。

特に、馬主が知らないままその所有馬が重賞レースに出走したり、馬の額にある白斑が塗りつぶされたままレースに出走するということは、出走登録や個体識別の制度が確立していたこの当時の英国競馬ではあり得ないことであった。

「大レースの本命と目される馬であるならばなお係員にそのような不手際が入り込む余地は無く、一介のファンですらその不自然さに気がつくはずだ」

そう声高に批判したのは特に競馬主催者たちであった。これにより、図らずもコナン・ドイルが実は競馬についてほとんど無知であることが、明らかとなってしまったのである。

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さすがに懲りたのか、これ以降ホームズが競馬絡みの事件に首を突っ込むことはなくなるのだが、シリーズの最後になって、とある牧場から依頼が舞い込んできた。ダービー出走予定馬ショスコムプリンスのオーナーであるロバート卿が発狂したらしい、というのである。

「ねえ、ワトソン君。きみは競馬が好きかい?」

ホームズはワトソンに尋ねる。

「好きかだって? 私は年金の半分を競馬に突っ込んでいるよ」

この一言にホームズはようやく重い腰を上げ、緻密な調査と鮮やかな推理の末、みごと事件を解決。同時に35年前の汚名返上をも果たしたのである。

 

***** 2016/01/04 *****

 

 

 

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