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2016年1月 2日 (土)

【競馬を読む①】ディック・フランシス

悲しいことだが、競馬において、死はめずらしくない―――。

ディック・フランシスの小説『再起』の書き出しの1行である。彼の小説は、最初の1行で既に“何か”が起きている。そして読者は、瞬く間に彼のミステリの世界に引きずり込まれてしまう。

毎年クリスマスに新作を発表し、一年後に邦訳版が早川書房から出版されていたことから、英国人は毎年のクリスマスプレゼントとして、また我々日本人は「寅さん」とか「釣りバカ日誌」のような年末年始恒例の娯楽として、彼の新作を毎年楽しみにしていた。

絶筆となった『矜持』の日本語版が出版されて5年。いまだ“フランシスロス”から立ち直れないファンは多かろう。実は私もその一人。なので仕方なくシリーズ1作目の『本命』から読み直しを始めた。今年は5作目の『飛越』の年。やはり正月はコタツにみかんとフランシスに限る。

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小説家の経歴はいろいろだが、アマチュアはともかく、プロのスポーツ選手だったという人はそうそういるものではない。

ディック・フランシスは障害ジョッキーとして、1953~54年のシーズンで英国リーディングの座を獲得したプロ中のプロのスポーツ選手である。

だが、彼の夢は小説家になることではなく、おそらくはグランド・ナショナルを優勝することであったはずだ。そんな彼の思いは、小説の端々から酌み取ることができる。

1956年のグランドナショナルに、彼は女王陛下の持ち馬デヴォンロックで出場した。最終障害を先頭で飛越。優勝は確実と思われたその瞬間、ゴール直前で馬がへたり込むように転倒して、競走を中止してしまったのである。馬が何かに躓いたわけではない。騎手がバランスを崩したわけでもない。それなのに、なぜか馬が腹這いになるように倒れ込んでしまったのだ。今も英国で語り継がれる『デヴォンロックの謎』である。

翌年、フランシスは現役を引退する。

その後、新聞の競馬担当記者を経て、1962年にミステリー小説『本命』で作家デビューを果たすと、昨年まで40作以上もの長編ミステリー小説を発表し、世界中のファンに愛されてきた。

彼の小説では原則的に毎回主人公が異なるのだが、『大穴』『利腕』『敵手』そして『再起』の四作品に登場した主人公「シッド・ハレー」は例外的存在と言える。ディック自身も愛着を持つキャラクターであったらしい。レース中の事故で片腕を失った男の再生と挑戦を描く物語は、まさしく彼の競馬小説の原点だった。あるいはシッド・ハレーこそが、実はディック・フランシス本人であったような……、そんな気さえしてくるのである。

 

***** 2016/01/02 *****

 

 

 

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コメント

ギムレットさま

あけましておめでとうございます。
相変わらず慌ただしい年末年始を過ごしておりますが、本を読むゆとりはなくしたくないですね。「強襲」読んでみます。
今年もよろしくお願いします。

投稿: 店主 | 2016年1月 3日 (日) 11時15分

明けましておめでとうございます。
ディック・フランシスの次男、フェリックス・フランシスが書いた「強襲」も、競馬ファンとミステリーファンを納得させる読み応えのある作品です。
本年も、どうぞ宜しくお願い致します。

投稿: ギムレット | 2016年1月 3日 (日) 00時30分

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