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2016年1月 5日 (火)

【競馬を読む④】夏目漱石

我が国にも競馬を愛した小説家は少なくない。代表格は文藝春秋社や直木賞を創設した菊池寛。競馬ファンにとっては「無事是名馬」の金言で知られる。

吉川英治は「ケゴン」や「ノワケ」、吉屋信子は「クロカミ」や「イチモンジ」という馬を所有する馬主であった。作家のネーミングは概してセンスが良く、ターフに清々しさを響き渡らせてくれる。山口瞳は毎週欠かさず東京競馬場のA指定席の行列に並んでいたし、直木賞を受賞されたあとでも、競馬場のスタンドに浅田次郎の姿を見かけない週はない。

では果たして、菊池寛以前の文学界において、競馬はどのような位置付けにあったのだろうか?

夏目漱石の「三四郎」には、少しばかり競馬のエピソードが顔を覗かせている。佐々木与次郎が広田先生から預かっていた20円で馬券を買って、しかも全額スってしまったので、三四郎が20円を貸してやるのだが、その金もなかなか返してもらえないというのである。

実はこの当時、政府による馬券発売の黙許政策が実施されたばかりだった。おかげで全国各地で競馬が盛んに行われるようになるのだが、一方で与次郎のような不祥事事件があとを絶たず、わずか2年で馬券を伴う競馬は中止に追い込まれている。漱石は、自らの小説に世事を織り込むのが巧みだったと定評があるが、これなどはその典型と言えるだろう。

また、英国留学中の1901年の日記には、「今日はダービーが行われるので我が家の付近は大騒ぎだ」という趣旨の記述も見られる。漱石は英国のエプソム街道沿いに住んでいた。日本で言えば大國魂神社の裏手あたりに住んでいるようなもので、その狂騒ぶりは容易に想像できる。

漱石自身が競馬に興味を抱いていたかどうかは知るよしもないが、サラブレッドの3大始祖やエクリプスなどについて漱石が書いたと見られる英文原稿の存在は確認されている。ただし、その文体から見ておそらく英国内の出版物を転記したものであろうとも言われる。

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漱石は実は密かな競馬ファンであったのではないか?

私としてはそう願わずにはいられない。「一度でいいから本場のダービーを見てみたいものだ」と敢えてエプソム近郊の下宿を選び、競馬禁止令下の米国から渡ってきたヴォロディオフスキーがダービーを勝つ姿を目の当たりにし、しかもその単勝馬券を的中させ、エプソムの青空に喝采を叫んだ―――。

あの風貌からはとても想像もできないような漱石像がそこにはあったのではないか? でなければ、バケツに「馬穴」の当て字を好んで使ったその理由が分からぬ。漱石の当て字好きは有名だが、だからと言って「穴馬」を連想させる字をわざわざバケツに当てるだろうか。今も競馬場に集う現代の大作家たちの姿を見るに、そうであったところで、何ら不思議はないように思うのである。

 

***** 2016/01/05 *****

 

 

 

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