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2016年1月18日 (月)

アランセーター

今年は暖冬だとか、好天に恵まれて中山の芝が例年よりずっと良いなんて話を書いた途端、週明けの東京を雪が襲った。

大した降雪量があったわけではない。それでも東京の交通網は大混乱。朝のニュースを見ていたらウチの近所の駅が映った。ホームから溢れた絶望的な人数の乗客が駅を幾重にも取り巻いている。雪は既にやんでいるのに、どういうわけか電車は来ない。仕事や学校に出かけなければならない人には申し訳ないが、今日は外に出ないと決めた。

ところが、飼い犬は散歩に連れて行けとせがむのである。

「ちょっと! まさかこの程度の雪であたしの唯一の楽しみを奪うつもりじゃないでしょうね」

―――そんな目でじっと見られると無視もできない。困ったなぁ。

Aran 

仕方なく、押し入れの奥からいちばん厚手のセーターを引っ張り出して散歩に出ることにした。以前アイルランドを訪れた際に購入した「アランセーター」である。

彼の地を訪れたのはさほど寒くない10月初旬であったし、そも私が旅先で衣服を買うことなど滅多にない。荷物は少しでも減らしたい人間なのに、よくもこんなかさばるセーターを持って帰ってきたものだと、我ながら感心してしまう。

おそらくよほど気に入ったのであろう。トウショウの勝負服を彷彿とさせるダイヤモンド格子柄の意匠は素晴らしいし、使われている羊毛は防水に優れているし、何より完全手編みである。着てみるとその暖かさは予想を遥かに超え、思わず「暑い…」と呟くほど。それゆえ並みの寒さでは出番はない。暖冬が叫ばれるこの冬に袖を通すことになろうとは思わなかった。

アランセーターの発祥は、アイルランドの西端に浮かぶアラン諸島にある。三つの小さな島からなるこの諸島は、石と岩でできた不毛の地。島民は海に出て生計を立てるほかなかった。冬場でも漁に出る男たちのために、防寒防水に秀でた羊毛で編まれたセーターが「アランセーター」である。

「羊毛が脱脂されていないのは防水のため。分厚く編み込まれた模様は保温のため」

店の主人は丁寧に説明してくれた。デコボコの激しいデザインは、ケルト文化の抽象文様を思わせる。アイルランド人は皆、紀元前に栄えたケルト人の末裔。店の主人とて例外ではあるまい。

店を出る時に「チャイニーズか?」と聞かれたので「ノー、ジャパニーズだ」と応えたら、握手を求められた。

アイルランド人の親日ぶりには目を見張るものがある。馬の輸出先として大事なお客様だと思っているのか、あるいは宿敵大英帝国相手に戦争した国というイメージがあるのか知らんが、そこまで喜んでくれるなら、入店時にジャパニーズを名乗れば良かったと後悔した。そうしたら、もう少しマケてくれたかもしれない。

 

***** 2016/01/18 *****

 

 

 

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競馬」カテゴリの記事

コメント

どとう様

コメントありがとうございます。
ギネスを飲みまくってほどよくイイ気持ちになっていたかので、私の愛想も良かったのかもしれませんねbeer

投稿: 店主 | 2016年1月23日 (土) 10時51分

この記事を読み終えた瞬間はアイルランドの人って親日家が多いのかと思いましたが、よく思い直してみると、国籍というより店の人がセーターを説明しているときのひしあまぐりさんの印象が良かったから握手を求めたような気がしてなりません。

投稿: どとう | 2016年1月22日 (金) 23時38分

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