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2016年1月 3日 (日)

【競馬を読む②】アーネスト・ヘミングウェイ

有馬記念当日の阪神メイン・カウントダウンSに出走したネオユニヴァース産駒のヘミングウェイは7着に敗れた。しかし、半年ぶりの競馬だったことを思えば上々であろう。

一方、ノーベル賞作家ヘミングウェイは、パリのオートウィユ競馬場をこよなく愛したことで知られる。1920年代当時の彼は、作家を志して貧苦に耐えていた。にもかかわらず、彼はヒマさえあればオートウィユに脚を運び、僅かな手持ちの金さえも溶かしてしまう毎日を繰り返していたという。

ところが、あまりに熱心に競馬場に通い詰めたおかげで、いつしか競馬場の時計係を任されるほど関係者と親しくなり、ついにある調教師から「1世紀に1頭の名馬」という勝負馬の情報を教えてもらう。「借金してでも、盗んでもいいから、ありったけの現金をかき集めて、この馬のデビュー戦に全額賭けるんだ」。調教師はヘミングウェイにそう言った。

繰り返すが、当時のヘミングウェイは赤ん坊のミルク代も捻出できないほど生活に窮していたわけだが、それでも彼はあらゆる持ち物を現金に替え、行きつけの理髪店の主人から1000フランを借り、挙げ句の果ては見ず知らずの通行人に向かって「金を貸してくれ」と言い出してまで金を集め、その“世紀の名馬”に賭けた。結果は見事的中。「この儲けで8ヶ月生活できた」そうだが、その8ヶ月間が過ぎると再び元の困窮生活に戻ったことは言うまでもない。

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時代は変わって1940年代を迎えると、念願叶ってヘミングウェイは文学界のヒーローとなった。暗黒の時代はとうに過ぎ去り、彼のきっぱりしたクリスプな文体と力強いメッセージこそが、新時代の人々が求める文学だったのである。

それでも彼は競馬から離れることはなく、知り合いの新聞記者と一緒に競馬予想会社を立ち上げ、自らも馬券に大金をつぎ込む生活を相変わらず続けていた。そのさなかの1954年、ついにノーベル文学賞の栄誉に包まれることになる。

「競馬は人生の縮図である」

彼の残した言葉の重みが、最近になって身にしみるようになった。ノーベル賞作家の言葉だからではない。微妙な選択が大きく明暗を分ける競馬は、まさに人生そのものではないか。発券機の手前で気が変わって泣きをみるのは日常茶飯事。連単を買えば裏目で決まるし、流し馬券を買えば抜け目が飛んで来るものである。満点のない試験のくり返しの日々。だが、なぜかそれを進んで受け入れてしまうあたりが、競馬の不思議な魅力であろう。

 

***** 2016/01/03 *****

 

 

 

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