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2015年12月12日 (土)

あれから20年

先日、20年来の友人たちと久しぶりに酒を飲む機会に恵まれた。

むろん競馬絡みではある。だが、生まれたばかりの赤ん坊が成人するほどの歳月の付き合いというのは、簡単に得られるものではない。

その友人とは海外の競馬観戦ツアーで知り合った。しかし約80人の団体旅行である。思い返してみても飛行機やバスの席が近かったわけではないし、ホテルの部屋が隣同士だったというわけでもない。食事の席もずいぶんと離れていた記憶がある。

仮にツアー参加者同士が親しくなることはあっても、ツアー中の一時的な仲であってもおかしくはない。なのに、そのツアーに参加した人と今もこうして会って酒を飲んでいる。あるいは競馬場で会って話をする。あるいは年賀状のやりとりをしている。「不思議な縁ですよね」。酒の席では自然とそんな言葉が出た。そんな不思議の縁を実現させた馬というのが、20年前の香港国際カップを勝ったフジヤマケンザンである。

この日の香港国際競走には3頭の日本馬が参戦していた。香港国際ヴァーズのタニノクリエイト、香港国際ボウルのドージマムテキ、そして香港国際カップのフジヤマケンザン。いずれも森秀行調教師の管理馬である。中でも前評判が高かったのはドージマムテキ。タニノクリエイトにもひょっとしたらチャンスはあるかもしれない。

「フジヤマケンザンの評価は?」

現地コーディネーターにそう聞いてみた。すると彼は首を振って「ノーチャンス」と笑う。カップには地元の最強馬ミスターヴァイタリティが出る。この馬は強い。馬主も大金持ちだ。優勝祝賀パーティーのために、今夜は香港ナンバーワンのホテルのレストランを借り切ったらしい。他の馬に勝ち目はない。

実際のレースではタニノクリエイトは4着。日本期待のドージマムテキも、あわやのシーンを作ったものの5着に敗れた。日本からの観戦ツアー客が陣取る来賓室に重い空気が漂う。

ノーチャンスと笑われたフジヤマケンザンは単勝38倍の低評価。だが、ポンとスタートを決めて4、5番手の好位に付けている。4コーナーを回ったところでも、まだ手応えは良さそうだ。後続も伸びてこない。あとは前を交わすだけ。蛯名騎手の手綱が激しく動く。そしてついにゴール前で先頭のヴェンティクアトロフォグリを交わして、そのまま3/4馬身差をつけてゴール。3度目の香港挑戦でついに栄冠を手にした。

Fujiyama 

私は興奮のあまり沙田のゴール前で発狂した。蛯名騎手も興奮のあまり鞭を落とした。来賓席もたいへんな騒ぎだったらしい。なにせ日本馬による海外での重賞勝利は1959年のハクチカラ以来、36年ぶり。日本人の騎手の手による勝利としては初の快挙である。これで興奮するなという方がおかしい。しかもツアー客の大半は、フジヤマケンザンの単勝をしこたま買い込んでいるのである。

応援ツアーに組み込まれた夕食会は、盛大な祝賀パーティーと相成った。それでも飲み足りない人は、宿泊ホテルのラウンジで2次会。思えば、この2次会で一緒になった面々が今も付き合いが続く人たちということになる。その中には野平祐二氏やフジヤマケンザンの生産者・吉田重雄氏の姿もあった。

あれから20年。明日の沙田競馬場では、5頭のGⅠ馬を含む10頭もの日本馬が走る。時代は変わった。野平祐二氏も、吉田重雄氏も、もうこの世にはいないのだと思えばそれも当然か。森厩舎ばかり3頭の遠征。しかしそれを「大挙遠征」と喜んで、勇んで香港まで応援に出かけて行ったあの当時が懐かしい。

 

***** 2015/12/12 *****

 

 

 

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コメント

ヤマシンさま

コメントありがとうございます。今年も香港国際レースが近づいてきました。フジヤマケンザンが勝ってから28年。隔世の感があります。
ミスターヴァイタリティが4着に負けて、2着と3着も人気薄だったので、3連複はかなりの高配当でした。オッズは覚えていませんが、香港からの帰りに持ち出す現金が多過ぎて出国審査でトラブルになったツアー客がいたことは覚えています。私は単勝だけだったので、そこまでの心配は無用でした。

投稿: 店主 | 2023年11月 9日 (木) 20時56分

初めまして
フジヤマケンザンの香港でのオッズを知りたくて検索しまくっていたらこちらにたどり着きました
それというのも、菊花賞以来ケンザンのファンでこのときも香港に行く友人に馬券を頼んで買ってもらっていたので連絡をもらった時は狂喜乱舞でした笑
私は単勝1000円複勝2000円を託していましたが、HKDではすこし多かったと思います。連絡をもらった時は6万なにがしと聞いていましたが、コラムで単勝38倍と知りました。では複勝はいったいいくらだったのか?2,3着馬も人気薄だったので計算では15倍位ついたのではと思っております。いま思えば馬連総流しをしとけば!などと欲張った考えも汗
その場におられたというのは羨望でしかありません
一緒に感動したかったなあ...

投稿: ヤマシン | 2023年11月 4日 (土) 16時33分

津田兼続様

コメントありがとうございます。
フジヤマケンザンは香港では「富士山」でしたね。今回、エイシンヒカリは「栄進之光」で、ヌーヴォレコルトは「新記録」。個人的にはストレイトガールの「真誠少女」が面白く感じました。

投稿: 店主 | 2015年12月13日 (日) 22時35分

ぽん太様

コメントありがとうございます。
モーリス、エイシンヒカリの優勝で、20年前の記憶がまたよみがえりました。

投稿: 店主 | 2015年12月13日 (日) 22時21分


素敵な思い出ですね。
皆さんとの交流が長く続きますように。

投稿: ぽん太 | 2015年12月13日 (日) 00時00分

いつも楽しくブログを読ませていただいております。

あれから20年も経つのですね。確か富士山はその後に中山記念をトップハンデで制したような!?サクラチトセオーを抑えての勝利だったと記憶しています。
ちょっと懐かしい思い出いっぱい!それも競馬の良さですね。

投稿: 津田兼続 | 2015年12月12日 (土) 23時28分

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