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2015年11月23日 (月)

ウマの国

「シリア」

この3文字が新聞・TVを賑わせている。特にパリのテロ事件の直後からは飛躍的に増加した。結果的に「シリア」という国に対してネガティブな印象を与え続けている感は否めない。

シリアは競馬史を語る上で欠かせぬ土地である。特に北部のアレッポは、かつては有名な馬市が立つ都市として世界中にその名を知られた。今でいえばキーンランドかニューマーケットといったところか。

なにせシリアにおける馬の歴史は長い。少なくとも紀元前18世紀には始まり、アレッポで購入されたダーレーアラビアンが、純血アラブ種の国外持ち出しを禁じたオスマン帝国の命令を破ってまで秘かに連れ出された18世紀まで延々と続いたのである。言うまでもなく、ダーレーアラビアンとは「サラブレッドの三大始祖」の一頭。今や全世界のサラブレッドの95%までが、このダーレーアラビアンの父系子孫とされる。

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三大始祖の残る2頭は、ゴドルフィンアラビアンとバイアリーターク。一部には「サラブレッドは3頭の種牡馬から繁殖の歴史が始まった」と誤解している人もいるようだが、それは正しくない。実際「ジェネラルスタッドブック(サラブレッド血統書)」第1巻には、102頭もの種牡馬が記載されている。18世紀のサラブレッドには多彩な父系血脈が凌ぎを削っていたが、やがて時代と共に淘汰され、現代ではダーレーアラビアン、ゴドルフィンアラビアン、バイアリータークの3系統しか残されていないということだ。競馬という厳しい試練が、残る99頭に父系子孫を残すことを許さなかったと言っても良い。そういう意味では、いずれダーレーアラビアン一頭が、唯一の「始祖」と呼ばれるようになってしまう可能性もある。

ただし、父系が途絶えた99頭の種牡馬たちにしても、母系に入って現代のサラブレッドに遺伝的影響を残している。現代の育種学の立場に立てば、父の父も、母の父も、遺伝的影響は変わらない。こうした視点から、現代のサラブレッドに対するそれぞれの種牡馬の遺伝的貢献度を計算すると、意外なことが明らかになる。

それによれば、もっとも貢献度が高いのはゴドルフィンアラビアンで14.5%。次いでダーレーアラビアンの7.5%。3位は、なんと現在では父系が途絶えているカーウェンズベイバルブの5.6%。そして4位がバイアリータークの4.8%となる。

なぜ父系子孫で95%を占めるダーレーアラビアンの遺伝的貢献度が、ゴドルフィンアラビアンの半分でしかないのか。それは、ダーレーアラビアンの父系を大きく発展させた実質的功労者のエクリプスの血統表を見ればわかる。ダーレーアラビアンはエクリプスの5代父(血量6.25%)であるが、実はエクリプスの母の父の父(血12.5%)がゴドルフィンアラビアンなのである。ここでついた2倍の差が、そのまま現代のサラブレッドの血統地図に現れた恰好だ。

それならばいっそ三大始祖のうちの一頭はダーレーアラビアンではなくエクリプスにしてしまおう―――。

一部にはそんな主張もあるようだが、私はそれには賛同しかねる。ダーレーアラビアンの名前を残すことは、騎馬国家として3500年以上もの歴史を誇るシリアに対する礼儀であろう。

 

***** 2015/11/23 *****

 

 

 

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コメント

いやいや、サラブレッドの始祖はサンデーサイレンスですよ。
いや、ディープインパクトかな。

数百年後、そうなっている可能性もありますよね。

投稿: tsuyoshi | 2015年11月25日 (水) 06時23分

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