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2015年11月12日 (木)

百本ノックの果てに

先週末の東京競馬場での話をしつこく続ける。

実は、アルゼンチン共和国杯が行われたこの日、長い競馬キャリアの中でも初めてという失態を犯してしまったのである。思い返すも腹立たしく、できることならきれいさっぱり忘れてしまいたいのだが、自戒の為に耐え難きを耐えて筆を執る。長くなるが、まあ聞いてくれ。

Hizume 

数年前まで私は競馬場であまり馬券を買う方ではなかった。表向きは「下手だから」という理由を通しているが、実際には競馬場で写真を撮る仕事をしていると、馬券検討や購入の暇がないのである。パドックを撮り、かえし馬を撮り、レースを撮り、口取りを撮り、そしてまた次のレースのパドックを撮る。延々この繰り返し。敢えて時間を作るなら馬場入りからレース発走の合間だろうが、それでも慌ただしさは否めない。

ところで私は昨年秋を境にJRAの競馬場で写真を撮ることをやめた。いちおうカメラは持参するが、たまに撮ってもスタンドからメインを撮る程度。己の年齢を思えば、この先撮影を続けられる年月もそう長くはあるまい。そんなことも考え始めて、最近では馬券に気持ちが戻り始めた。馬券を楽しむことができなければ、長く競馬と付き合うことはできぬと、今更ながら悟ったのである。

この夏、パークウインズ開催の東京競馬場にせっせと通ったのも、そんな気持ちがあればこそ。馬の走らぬ競馬場では、当然ながら馬券だけで一日を過ごさなければならない。私が挑んだ全国3場12レースを買いまくる36番勝負は、勘を取り戻すための百本ノックのようなものか。おかげで馬券の買い方もずいぶんとマシになってきたような気がする。

11月になった今でも百本ノックは継続中だが、それにしても3場の馬券を律儀に買わんとする行為は思いのほか難しい。なにせ発売締切が10分おきに襲い掛かるのである。

ひとつのレースが終われば、ハズレ馬券を即座に捨て、当たり馬券は上着の内ポケットにしまう。確定を待つ暇などないから、払い戻しもあと回し。モニタに映し出される馬体重とオッズを一瞥すれば、既に締切5分前のアナウンス。マークシートを塗りつつ券売機の前に立ち、財布から札を取り出すそばから発売締切のベルが鳴り、息つく間もなくファンファーレが鳴り響く。かくして私は一個の馬券購入マシーンと化すのである。

時間に追われたとしても、競馬歴36年の威信にかけていい加減な馬券を買うことは己のプライドが許さない。言うまでもないことだが、「青葉でラーメンを食べたから、青葉賞馬2頭の馬連で」などというのは、このブログのためのネタである。右耳で東京の本馬場入場の場内実況を聴きつつ、左耳のラジオのイヤホンでは福島のパドック解説を聴き、右目で京都のオッズモニタを追いながら、左目は手元の専門紙で関係者コメントを読む。しかも頭の中では「今日の昼飯は何を食おうか?」などと考えているのだから我ながら凄い。Windows10も驚くマルチタスクぶりである。

そんなことを繰り返していた先週日曜。東京8Rを的中した払戻金で福島10Rの馬券を買おうと当たり馬券を払戻券売機に突っ込んだところ、「この投票券は的中しておりません」という無機的なアナウンスと共に馬券が吐き出された。再度繰り返してみても同じ。なんだよこの忙しいのに!と若干憤慨しつつ、窓口のおばちゃんに「これ機械が読み取れないみたいなんだけど」と差し出す。すると、「京都8レースの枠連は6-8なので、これは当たっていませんよ」と言うではないか。

京都―――?

返された馬券には確かに「京都8レース」と書いてある。

あれ? ふんじゃあ、私が当てた東京8レースの馬券はどこだ?

いやな予感がした。いや「予感」なんて生易しいものではない。慌てて内ポケットを探るがない。他のポケットにもない。席に戻ってみたが、やはりない。

となれば答えはひとつ。さっきハズレ馬券を捨てたゴミ箱。あそこしかない。

慌ててゴミ箱に向かうと、ちょうど掃除のおばちゃんがゴミを集めているところだった。「ちょっとごめんなさい」と言うよりも早くゴミ箱を覗きこむ。だがそこに「東京8レース枠連5-6」と印字された馬券はない。聞けばゴミ箱は5分おきに見回っているのだという。だとすればすでに回収されてしまったのであろうか。

どうかゴミ箱の前に呆然と立ち尽くす哀れな47歳を想像していただきたい。私がゴミ箱の底までを探し尽くし、納得してその場を去るまで、掃除のおばちゃんは黙って待っていてくれた。その優しさだけが身に浸みる。

思い返せば、8レース前後の記憶が曖昧なのである。おそらく、あまりのマルチタスクに私の脳ミソが処理能力の限界を超えてしまったのであろう。百本ノックはもうやめよう。馬券も簡単にゴミ箱に投げ入れてはいけない。さらにゴミの回収はレース発走間隔より短いのである。そんな勉強代だと思うことにしよう。それにしても、嗚呼……。

 

***** 2015/11/12 *****

 

 

 

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