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2013年5月28日 (火)

狂騒と静寂のダービー

おとといの日本ダービーでの出来事。地鳴りのような大歓声に誘導馬が驚いて、地下馬道に戻ろうとする隊列が突如乱れるシーンがあった。ターフビジョンの映像がダービー出走馬の一覧に切り替わり、発走が近いと喜んだファンたちが一斉に歓喜の雄叫びを上げたのである。

Stand  

一昨日のダービーの熱狂ぶりは凄まじかった。いや「熱狂」なんて生易しいものではない。「狂騒」あるいは「狂乱」と感じた方もいらっしゃるのではないか。あとから入場者数が14万人弱だったと聞き、「たったそれだけ?」と私が感じたのは、その熱狂度合いが15万、16万のそれに匹敵していたからに違いない。

コディーノやヒラボクディープなどは、馬場入場時の大歓声に驚いて早くもテンションMAX。この時点で彼らのダービーは既に終わっていた。大歓声を直接浴びることになる大外枠を引いたミヤジタイガも、気の毒と言うほかはない。鞍上の松山騎手はダービー初騎乗。あの歓声に曝されて、それでも平常心を保てと言うのは酷であろう。しんがり負けは決して彼らの実力ではない。

Gate  

現役当時の岡部幸雄氏は、発走前に大声を出すのをやめて欲しいと、ことあるごとに訴え続けてきたが、なかなか浸透しなかった。2番人気のシャイニンルビーで挑んだ2002年の秋華賞では、スタンドの歓声に舞い上がった馬がゲートに入ろうとせず、消耗の挙句に外枠発走の憂き目に。結果しんがり負けを喫した。「JRAはあのバカ騒ぎをやめさせろ」と珍しく強い口調で毒づいたのは、そのレースの直後のことである。

JRAも一時はターフビジョンなどでファンに注意を促していたが、最近ではあまり見かけなくなった。むしろ、発走直前に前年のレース映像を流したり、国歌斉唱を織り込んでみたりするなど、ファンの熱狂を煽る方向に傾注しているようにも思える。

実際、あれだけの人数を一か所に集めておきながら、「騒ぐな」と言うのは無理がある。すし詰めのスタンドで何時間も待たされ、ようやく目当ての一戦が始まると思えば、気持ちが昂るのは当然。ダービーを第1レースに組めば、もっとおとなしくなるだろうが、売上を捨ててまでJRAがそんなことをするとは思えない。

「スタンドから遠く離れた場所から本馬場入場すれば良い」とか、「発走前に流すファンファーレをやめてしまえ」など、いろいろな意見も聞こえてくるが、私個人は、「狂騒」を、「12ハロンの距離」とか「直線の長い坂」などのような日本ダービーで人馬がクリアすべき要素のひとつと割り切るようにしている。それらをすべて克服して、1着ゴールを果たしたのがキズナだった。

Kizuna  

ドバイワールドカップでは発走直前にドカンドカンと花火が打ち上がる。歓声や騒音にいちいち反応しているようなヤワな精神の持ち主では、日本ダービーもワールドカップも勝てない。ブエナビスタは歓声にも花火にもまったく動じなかった。

ダービー80回の歴史の中には、馬券発売がなく、一般客の入場も認められず、わずか200人の関係者だけが見守る中、ひっそりと行われたダービーもある。戦時下の1944年、「東京能力検定競走」として行われた第13回ダービー。勝ち馬は「カイソウ」と記録が残る。そのダービーに持ち馬トキノチカヒを出走させていた文豪・菊池寛は、この年のダービーを生観戦した数少ない一人だ。愛馬が9着に敗れるのを見届けるや、「歓声がないと馬も走らん」と言い残して競馬場を後にしたという。静まり返ったダービーというのは、想像するにしてもちょっと怖いものがある。

 

 

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