好戦的なレース?
先月京都の羅生門ステークスのTV中継だったと思う。トラバントとスノードラゴンが馬体を並べて追い比べを演じているのを、実況アナが「激しいデッドヒート!」と伝えた。
本来「同着」という意味であるはずの競馬用語 "dead heat" が、「接戦」と誤訳されたまま広く定着してしまったのは有名な逸話である。言葉は生きもの。時代とともに意味が変わってしまうのは仕方のないことでもあるが、こと競馬に携わる人間が率先して誤用を進めるは感心しない。
そんなことがあった後日、今度は邦訳された古い小説を読んでいたら「アケダクト競馬場で競艇が行われて当局が調査に乗り出した」という一文に突き当たり、私の脳内はクエスチョンマーク(?)で埋め尽くされることとなった。
日本固有の公営競技であるはずの競艇がニューヨークで行われていたのか?
ダートコースをどうやってボートが進むのだろうか??
競馬場で競艇が行われると警察沙汰になるのか???
念のために書いておくが「競馬」の誤植ではない。おそらく、何も知らない訳者は "boat race" を「競艇」とそのまま訳してしまったのであろう。競馬場で競艇が行われるはずがない。"boat race" とは競馬用語で「八百長」の意。まあ、アケダクト競馬場の内馬場には小さな池があるから、ボートレースをやろうと思えばできるかもしれないけど、それで警察が出てくることはなさそうだ。
とまあ、こんな具合に誤訳にぶりぶり怒りをみなぎらせていた東京開幕週のこと、とある外国人ジョッキーに「この馬はバテないから積極的なレースをしてください」と伝えようとして、次のように喋った。
He will not be tired, so please carry out aggressive race.
ところが、あとから考えたらこれは正しくない。 "aggressive" は、「強気の」という意味合いだとイメージしてたのだけど、実はどちらかと言えば「好戦的」という意味なんだそうだ。つまり私はあのAJCCの直後の週に、外国人ジョッキーに向かって「好戦的なレースを」とお願いしたことになる。ああ、怖い。
加えて「バテない」と言うならば "not fold up" と言うべきところだった。すなわち、
He will not fold up, so please follow the pace.
とでも言えば良かったのだろう。"follow the pace" は「先頭集団に付ける」という意味で耳にするフレーズだ。
ちなみに件の馬は大きく出遅れて最後方からの競馬も、向こう正面から積極的に捲って出て、結果3着に食い込んだ。ほかの馬に「好戦的な」アクションをした様子は見受けられなかったので、そこはホッとしたのだけど、私のちんぷんかんぷんな英語のせいで、思わず出遅れちゃったのだとしたらたいへん申し訳ない。いたく反省。
| 固定リンク
「競馬」カテゴリの記事
- 30年間で2例の信憑性(2018.04.25)
- 淀の2マイルに挑む牝馬(2018.04.24)
- 馴染みの薄い関東馬(2018.04.09)
- 常識の壁(2018.04.10)
- 節目の40戦目(2018.04.12)
コメント