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2013年2月19日 (火)

ゴボウ抜きの美学

Kak  

直線だけで10頭を抜き去った土曜のアラフネに続いて、またまたゴボウ抜きの話。日曜の東京4Rを勝ったカケダシは、直線に向いた時点でほぼ最後方の15番手。だが、そこから前を行く馬を次々と抜き去り、ついにはハナ差で1着ゴールを果たした。GⅠ当日ということもあり、こういうレースはスタンドが多いに盛り上がる。

地上の茎を手に持って地下のゴボウを引き抜くには、一気に、しかも直線的に抜かなくては途中で折れてしまう。それが転じて直線一気に追い抜く様を「ゴボウ抜き」と呼ぶようになった。実際のゴボウの収穫にあたっては畝の両側から堀り進めて、掻き出すように掘り出すものだとは先日書いたばかりだが、火山灰地など地域によっては文字通りの「ゴボウ抜き」で収穫されているところもあるそうだ。

最近では箱根駅伝でこの「ゴボウ抜き」という言葉をやたらと耳にする。しかもご丁寧に「ゴボウ抜き記録」などという言葉まである。歴代1位の記録は2009年大会で日大のダニエル選手が記録した「20人抜き」なんだそうだ。

ちなみに「ゴボウ抜き」という表現が使われるのは10人以上を抜いた場合に限られ、その記録のほとんどは2区で達成されている。つまり、先頭からの距離がまだそれほど離れておらず、しかもそこそこ強いランナーが登場する区間だから。むろん大記録達成のためには1区のランナーの凡走が欠かせない。上位でタスキを受け取ってしまったら、それ以上抜く相手がいないからである。そう思うと、まあ、あまり意味のある記録とも思えませんな。箱根駅伝に参加できるのは、基本的には20チームだから、ダニエル選手の「ゴボウ抜き記録」は当分破られることはあるまい。

では、競馬での「ゴボウ抜き記録」はいったいどれくらいなのだろうか?

競馬の「ゴボウ抜き」は最後の直線だけで何頭抜いたかが焦点となる。しかもその馬が1着でゴールしていなければ記録としての価値は薄い。当然ながら多頭数の方が記録達成の可能性は高くなる。

となれば、1971年の日本ダービーが暫定1位ではあるまいか。史上5番目に多い28頭の出走馬を数えたダービーで、4角24番手から直線だけで23頭を交わして優勝したヒカルイマイである。

そのレースをゴール板で見ていたJRA関係者に話を聞いたことがある。

「ゴムをいっぱいに引っ張ってから放したみたいに、ものすごい脚でビューンと飛んできた。ほかの馬が止まって見えると言うことはよくあるけど、あのときは“本当に”止まって見えたんだよ」

ヒカルイマイは先頭のハーバーローヤルを一瞬でかわすと、逆に1馬身の差をつけてゴールに飛び込んだ。これぞ史上最高のゴボウ抜きであろう。「一気に、そして直線的に」というからには、アラフネやカケダシのように「直線でふらふらになりながら、どうにか追いついた」という体ではゴボウ抜きの語感に馴染まない。そこには美しさと、そして圧倒的な力量差が求められる。

頭数のことを言わなければトリプティクの富士Sも忘れがたい。9頭立てで4角9番手。日本の馬ではまず届かないような位置から猛然と追い込んで、逆に5馬身の差をつけたそのレースぶりは私の心を大きく揺さぶった。ヒシアマゾンのクリスタルカップも、ディープインパクトの皐月賞も、どれも素晴らしいゴボウ抜きではあったが、トリプティクの走りに見た美しさと力量差には、残念ながら及ばないのである。

Di

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