2022年9月26日 (月)

67秒後の栄冠へ

最近5年のスプリンターズSの連対馬10頭を性別で分けると、牡馬牝馬がそれぞれ5頭ずつと牝馬の健闘が目立つ。グレード制が導入される以前のスプリンターズSでも、牝馬が9勝8敗と牡馬を抑えていた。今年も牝馬・メイケイエールが人気を集めることは間違いない。

1979年などは上位6着までを牝馬が独占している。この年のスプリンターズSを勝ったのはサニーフラワー。その勝ち時計は1分12秒8とかかった。この年のスプリンターズSがダート変更になったわけではない。当時の芝コースは、ひとたび雨が降ればたちまち泥田と化した。だから、状況によってはダートの方が時計が出ることもある。1977~78年のスプリンターズS連覇の快速牝馬メイワキミコは、芝とダートのそれぞれで1200mのレコードをマークしたが、芝が1分9秒3(新潟)に対し、ダートは1分9秒2(中山)である。当時、芝とダートの時計関係はこんなもんだった。

中山の1200mで1分8秒の壁が初めて破られたのは、1990年のスプリンターズS。バンブーメモリーが1分7秒8で優勝し、それまでのレコードをコンマ3秒縮めてみせた。実はスプリンターズSはこの年からGⅠ昇格したばかり。そういう意味では、レースの格がタイムに現れやすい条件ともいえる。翌年はダイイチルビーが1分7秒6で優勝。以後、スプリンターズSでは1分7秒台の決着が珍しくなくなる。そしてついに10年前にはロードカナロアが1分6秒台での優勝を果たしたした。

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スプリンターズSで1分5秒台が叩き出され日も近いのではないか―――。

そう思ったのもつかの間、にわかに状況が変わってきた。中山の芝で時計が出なくなったのである。たとえば先日の京成杯AHの勝ちタイムは、良馬場にもかかわらず1分33秒6だった。かつてなら1分32秒台や31秒台は当たり前。2019年には1分30秒3の日本レコードも飛び出していたはず。なのに、もはやあの高速馬場の面影はない。

馬場変貌の理由のひとつに「エアレーション効果」を挙げる声を聴く。地面に穴を開けて空気を送り込み、地盤を柔らかくする作業のこと。おかげで、多少の雨で馬場が極端に悪化することはなくなった。昨日などは中間に187ミリもの降雨があったにも関わらず、土が飛んだり、芝が剥がれるというシーンが見られなかった。サニーフラワーの当時を知る者とすれば、隔世の感を禁じ得ない。

一方で、今の中山開催で行われた芝1200m戦8鞍の平均タイムは1分9秒0。最速でも開催初日に記録された1分7秒6にとどまる。極端に悪くはならないが、時計も出にくい―――。そんな中山で行われるスプリンターズSは、実は曲がり角を迎えつつあるのかもしれない。

とはいえ、6ハロン戦自体が戦後なってから行われるようになった比較的新しい距離。1946年のレコードタイムはヤスヒサの1分15秒4/5(当時は1/5秒単位の計時)だった。70年間を経て9秒以上も縮まっているが、歴史的に見れば未だ変遷の最中であってもおかしくない。今年も7秒台の決着か。それとも10年ぶりに6秒台が出るのか。勝ち馬はもちろん、勝ち時計にも注目の一戦だ。

 

 

***** 2022/9/26 *****

 

 

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2022年9月25日 (日)

山田騎手の悲劇

帰省を終えて新幹線に乗って大阪に戻ってきた。昨日とおとといの新幹線を止めた台風15号の影響を受けずに済んだことには感謝せねばなるまい。なにせ中山で騎乗予定だったミルコ・デムーロ騎手は土曜の全4鞍をキャンセル。逆に美浦から中京に向かった山田敬士騎手は、夜を徹してタクシーを飛ばしたものの、ついに中京1レースに間に合わなかった。しかも騎乗予定のフェルヴェンテが川田将雅騎手に乗り替わって勝ってしまうのだから切ない。これが阪神ならば空路という選択肢もあっただろうが、中京ではその判断も難しかろう。そう考えると京都改修に伴う開催変更も「山田騎手の悲劇」の遠因だったりする。

東京から大阪に行くにあたり新幹線を使うか、あるいは飛行機を使うか―――。競馬関係者のみならず、一般的にも広く興味のある話題だと思う。

私の自宅は川崎市にあるから新横浜駅にも羽田空港にも比較的アクセスが良いし、近ごろは航空各社の企業努力のおかげか知らんが羽田~伊丹間の航空運賃は新幹線のそれとほとんど差がなくなった。大阪に住む身となってからは、帰省のたびに「どっちで行こうかなぁ…」と、うだうだ悩んでいる。

川崎に住んでいた当時の阪神競馬場への遠征は、往路は新幹線で、帰路は飛行機というパターンが多った。次いで「行きも帰りも飛行機」が多かったように思う。JR東海の関係者には申し訳ないが「新幹線で戻った」という記憶は、少なくともない。

これは私の“せっかちさ”が、多分に影響していると推測する。つまり、無意識のうちに、主たる移動手段に乗り込む場所が近い方を選択しているのではあるまいか? たしかに自宅からは、羽田空港より新横浜駅の方がわずかながらアクセスが良いし、阪神競馬場からだと、新大阪駅よりも伊丹空港の方が若干早い。行きではさほど気にならない新大阪~梅田間のわずかな移動距離が、帰りになるととてつもなく煩わしく感じてしまうのであろう。

当然ながら京都競馬場への行き来は、毎度新幹線のお世話になる。

もう30年以上も前の話になるが、マイルチャンピオンシップを見に行った帰りの新幹線で、自分の座った席と通路を挟んだ隣の席に、岡部幸雄騎手が座っていてひっくり返った。そりゃあ、誰だって驚きますよね。自分の手を思い切り伸ばせば、そこに“名手”の「手」に触れられるほどの距離なんだから。

新幹線がするすると京都を出発すると、岡部さんはプシュッ!と小気味良い音を立てて缶ビールを開け、隣に座る2人の同行者と競馬談義に花を咲かせていた。会話の内容までは分からないが「シャダイソフィアはね……」というフレーズが出てきたことは覚えている。しかし、それにも増して極度の緊張状態を強いられた私は、東京までの3時間弱を固まったまま過ごさざるを得なかった。

何せ隣に座るのは、たった今行われたばかりのマイルチャンピオンシップで、シンコウラブリイの背中にいた人物なのである。私は、ついさっきその姿をスタンドから遠目に眺めてきたばかりなのだ。

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しかし、当の岡部さんは2本目の缶ビールを開け、ますますゴキゲンになってゆく。何度か若い女性が―――競馬ファンと考えるのが自然だろう―――やってきて、岡部氏に話し掛けていった。岡部さんも競馬場では絶対に見ることのできないような笑顔でそれに応えている。あれから四半世紀あまりを経た今なら、私も緊張などせずに騎手に話しかけられるだろうか?

いやあ、無理だなぁ。ともあれ、あんなハプニングに遭遇できるならば新幹線も捨てたものではない。今は新大阪に近いところに住んでいるので、行きも帰りも新幹線のお世話になってます。

 

 

***** 2022/9/25 *****

 

 

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2022年9月24日 (土)

牝馬のオールカマー

明日の産経賞オールカマーの前日発売では、一昨年の3冠牝馬デアリングタクトが人気を集めている。さらに2012年の3冠牝馬ジェンティルドンナの娘・ジェラルディーナも人気の一角。仮に牝馬2頭のワンツーフィニッシュという結果になれば、昨年のウインマリリン・ウインキートスに続いて2年連続の出来事。オールカマー史上では4回目となる。

1995年のオールカマーで人気を集めたのはヒシアマゾンだった。その年の3月に米GⅠ・サンタアナハンデに出走すべく渡米したが、慣れぬ環境に馬体を減らし、水を飲むことさえしない。挙句の果てに、雨で路盤がむき出しになった馬場での調教が祟って左前脚を捻挫。レースを目前にしながら無念の帰国となった。その後7月の高松宮杯に出走するも、まるで精彩を欠いた走りで5着。牝馬は一度体調を崩すと立て直すのが難しい。一時は引退説も流れた。それでもファンは、オールカマーに挑むヒシアマゾンを1番人気に押し上げたのである。

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実はこの年のオールカマーは台風12号のために平日の月曜日に行われた。にも関わらず、46,888人もの観衆が中山につめかけたのは、女王復活の瞬間をひと目見たいと願うファンが、それだけ多かったからにほかならない。前日の雨が残って馬場は稍重。アイビーシチーが先導するスローペースに業を煮やしたヒシアマゾンは、3コーナー付近で早くも先頭に立ってしまう。どよめくスタンドの大観衆。ヒシアマゾンが先頭のまま馬群が直線に向くと、満を持してスパートしたアイリッシュダンスが猛然と襲い掛かってきた。

その差は2馬身、1馬身、半馬身。しかしそこからがヒシアマゾンの真骨頂だ。マチカネアレグロを競り落としたニュージーランドトロフィー4歳Sでも、チョウカイキャロルとのマッチレースを制したエリザベス女王杯でも、馬体を併せての競り合いで彼女は負けたことがない。それが女王の女王たる所以。ラスト1000mのラップタイムは、計ったように11.8-11.8-11.8-11.8-11.4である。最後の1ハロンが少しだけ速いのはアイリッシュダンスが競りかけた分であろう。この日もクビ以上にその差を詰められることはなかった。湧き上がる大歓声。女王復活の瞬間である。

Allcomer

ヒシアマゾンが名牝であることは論を待たないが、アイリッシュダンスにしても牡馬相手にふたつの重賞を勝っただけでなく、ハーツクライという不世出の名馬の母でもある。そういう意味において、この年のオールカマーは名勝負だった。

あれから27年を経た今年のオールカマーも台風翌日の開催という点では同じ。「牝馬のオールカマー」の再現はあるか。デアリングタクトもジェラルディーナも、もちろん昨年の雪辱がかかるウインキートスも、誉れ高き2頭の名牝に続きたい。

 

 

***** 2022/9/24 *****

 

 

 

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